脱炭素業務を「AI×専門チーム」で丸ごと代行──アスエネが切り拓くサステナビリティBPOの新潮流

「CO2排出量を報告しなければならないが、データの集め方すら分からない」──そんな悩みを抱える企業の担当者は少なくありません。欧州のCSRDや日本のSSBJ基準など、サステナビリティ情報の開示を求める規制は年々厳しさを増しています

2026年3月、CO2見える化クラウド「ASUENE」を展開するアスエネ株式会社が「AI BPOサービス」を発表しました。AIによるデータ処理と専門チームによる精査を組み合わせ、脱炭素業務を丸ごと代行するというサービスです。国内外3万社のサステナビリティ経営を支援してきた実績を持つ同社が、なぜ今「BPO」に踏み切ったのでしょうか。

企業の脱炭素担当者が直面する「3つの壁」

サステナビリティ推進の実務は、想像以上に泥臭い作業の連続です。

1. データ収集の手間

CO2排出量を算定するには、自社のエネルギー使用量(Scope1・2)だけでなく、取引先を含むサプライチェーン全体(Scope3)のデータを集める必要があります。請求書やエネルギー使用明細を1件ずつ確認する作業は、担当者にとって大きな負担です。

2. 規制の複雑化

CDP、SBTi、CSRD、TCFD、TNFD、SSBJ──アルファベットの略語が並ぶ各種規制やイニシアチブへの対応が求められます。それぞれフォーマットや基準が異なるため、「どれに、どう対応すればいいのか」を把握するだけで一苦労です。

3. 属人化のリスク

多くの企業では、脱炭素業務が特定の担当者に集中しがちです。その人が異動や退職をすると、ノウハウごと失われてしまう──こうした属人化の問題も深刻化しています。

AI BPOサービスの仕組み──「機械の速さ」と「人間の目」を両立

アスエネのAI BPOサービスは、脱炭素業務の工程を6つのフェーズに分解し、それぞれに最適な手段を割り当てています。

従来の手作業担当者1〜2名で対応
    • Excelで請求書を手入力
    • 排出係数を1件ずつ調べて計算
    • 異常値の見落としが発生
    • レポート作成に数週間
AI BPO導入後AI+専門チームで代行
  • AIがデータを自動登録・分類
  • 排出係数の整理もAIが処理
  • 異常値をAIが即座に検知
  • 専門スタッフが最終確認・精査

具体的には、以下の6ステップで業務が進みます。

1. 導入設計 – 排出原単位の設定、部署ごとの運用フローを設計

2. データ回収 – Scope1〜3の排出量データやサプライヤー情報を収集

3. データ加工・算定 – AIがデータの登録・分類・排出係数の整理を自動処理

4. 品質チェック – AIによる異常値検知+専門スタッフによる証憑確認

5. 開示支援 – CDP・CSRD・SSBJなど各規制に合わせたレポートを作成

6. 運用最適化 – 継続的な改善提案で算定精度を向上

ポイントは、大量データの処理はAIに任せ、判断や確認が必要な工程は専門チームが担当するという明確な役割分担です。

脱炭素業務における「AIが得意なこと」と「人間が不可欠なこと」

AIが得意請求書・明細からのデータ抽出、排出係数の自動マッチング、大量データの異常値検知
人間が不可欠証憑書類の真正性確認、規制解釈に基づく算定方針の判断、サプライヤーとの交渉・データ依頼
協働で効率化AIが下書きしたレポートを専門家がレビュー、AIが検知した異常値を人間が原因分析

このような役割分担は、脱炭素業務に限った話ではありません。データ入力・集計はAIが高速処理し、最終判断は人間が行う──この構図は、経理や総務、コンプライアンスなど多くのバックオフィス業務に共通するパターンです。

なぜ今「BPO」なのか──SaaS単体では解決できない課題

アスエネはこれまで、クラウドサービス「ASUENE」を通じてCO2排出量の見える化ツールを提供してきました。東京商工リサーチの2025年7月調査によると、CO2見える化サービスの国内導入社数でNo.1の実績を持ちます。

それでも「ツールだけでは足りない」という声が多かったのでしょう。ソフトウェアを導入しても、データを集めて入力する作業自体は人がやらなければならない──この「ラストワンマイル」の課題を解決するために、AIと専門チームによるBPOという形態を選んだと考えられます。

同社は日本・シンガポール・米国・タイ・英国・フィリピンに拠点を持ち、グループ会社にはカーボンクレジット取引所のCarbonEXやワークフロー自動化のAnyflowなども擁しています。SaaS+BPO+AIという三位一体の体制で、脱炭素の実務をワンストップで引き受ける狙いが見えます。

働く人への影響──「作業」から「判断」へのシフト

このサービスが普及した場合、企業の脱炭素担当者の仕事はどう変わるのでしょうか。

減る業務:
  • Excel手入力によるデータ集計
  • 請求書の1件ずつの確認作業
  • 定型フォーマットへの転記
増える・重要になる業務:
  • AI+BPOチームへの的確な指示出し
  • 算定結果に基づく経営層への報告・提案
  • 規制動向を踏まえた中長期戦略の立案

つまり、単純な「データ処理係」から「サステナビリティ戦略の司令塔」へと役割が変化していく可能性があります。これはバックオフィス全般に起きつつある変化の縮図とも言えるでしょう。

関連する職種のAI影響度

この記事で取り上げた脱炭素BPO業務は、以下の職種に関連しています。AIがどのように各職種の業務に影響するか、詳しくはそれぞれのページをご覧ください。

  • 総務事務 – サステナビリティ報告や社内環境データの取りまとめは総務の主要業務のひとつ
  • 経理事務 – エネルギー費用の請求書処理やScope1-3データ収集は経理業務と密接に関連
  • コンプライアンス推進担当 – CSRD・SSBJなどの規制対応はコンプライアンス部門の重要課題

まとめ

アスエネの「AI BPOサービス」は、脱炭素業務の「面倒だけど避けられない実務」をAIと専門チームで丸ごと引き受けるという新しいアプローチです。

注目すべきは、AIを万能ツールとして使うのではなく、「データ処理はAI」「判断・確認は人間」と役割を明確に分けている点です。この考え方は脱炭素に限らず、企業のバックオフィス業務全般に応用できるモデルと言えます。

規制が複雑化し続ける中で、「自社だけで全部やる」時代から「AIと専門家に任せられる部分は任せ、自分たちは戦略に集中する」時代へ──アスエネのサービスは、その転換点を象徴する動きです。

出典・参考