福岡市の高齢者乗車券、年間16万件の申請処理をAI-OCR×RPAで効率化——窓口職員の働き方はどう変わったか

自治体の福祉窓口で働く職員にとって、最大の悩みは「本当にやりたい仕事に時間が使えない」ことかもしれない。高齢者の相談に乗りたい、制度をより使いやすく改善したい——そう思いながらも、目の前には大量の申請書が積み上がる。手書きの文字を読み取り、システムに入力し、通知書を発行する。その繰り返しに1日の大半を費やしている職員は少なくない。

福岡市が運営する「高齢者乗車券」制度で、この構造的な課題に対する具体的な解決策が示された。パーソルビジネスプロセスデザイン株式会社が業務を支援し、AI-OCRとRPAを組み合わせた申請処理の効率化を実現したのだ(出典:PR TIMES)。

年間16万件、ピーク時は1日1万件超

年間約16万件福岡市の高齢者乗車券の年間申請件数。そのうち8〜9割が7月〜12月の繁忙期に集中する

福岡市の高齢者乗車券は、高齢者の社会参加を促進するための交通費助成制度だ。対象者が多く、申請件数は年間約16万件にのぼる。しかも年間を通じて均等に届くわけではなく、7月〜12月に8〜9割が集中する。ピーク時には1日1万件を超える申請が届く日もある。

従来、この大量の申請書は人の手で処理されていた。手書きの申請書を1枚ずつ目視で確認し、記載内容をシステムに入力し、審査して交付決定通知書を発行する。繁忙期には処理が追いつかず、マンパワーに頼った体制の限界が見えていた。

AI-OCR×RPAで何が変わったか

パーソルビジネスプロセスデザインが導入したのは、大きく2つの技術だ。

1つ目はAI-OCR(AI搭載型の文字認識技術)。 手書きの申請書を自動で読み取り、記載内容をデータ化する。従来は職員が1枚ずつ目視で確認していた作業が、機械による自動読み取りに置き換わった。 2つ目はRPA(定型業務の自動化ツール)。 審査後の交付決定通知書をオンラインシステムにアップロードする作業を自動化した。従来は職員が1件ずつ手作業でアップロードしていた工程だ。
従来手作業中心
    • 手書き申請書を1枚ずつ目視で確認
    • 記載内容を手入力でシステムに登録
    • 交付通知書を1件ずつ手動アップロード
    • 繁忙期は処理が追いつかず残業が常態化
AI-OCR×RPA導入後自動化
  • AI-OCRが手書き文字を自動で読み取り
  • 読み取りデータを自動でシステムに反映
  • RPAが交付通知書を自動アップロード
  • 職員は例外対応と最終確認に集中

さらに、オンライン申請の導入も並行して進められた。オンライン申請者のうち約7割が電子交付を選択し、電子交付の実績は2万件以上に達している。紙の申請書自体が減ることで、処理全体の負荷が下がる好循環が生まれている。

職員の仕事は「なくなる」のではなく「変わる」

この事例で注目すべきは、AIやRPAの導入によって職員の仕事が「なくなった」のではなく、仕事の中身が変わったという点だ。

事務処理に費やしていた時間が削減されたことで、職員は制度の企画業務高齢者への申請サポートといった、より付加価値の高い業務にリソースを振り向けられるようになった。スマートフォンの操作に不慣れな高齢者に対面で申請方法を案内する、制度の利用状況を分析して改善提案をまとめる——こうした「人にしかできない仕事」に時間を使える体制が整いつつある。

コールセンターについても、単に電話を受けるだけでなく、綿密なマニュアル化と入電傾向の分析に基づいた対応体制を構築。問い合わせ内容の傾向を把握することで、FAQ の充実や申請書の改善にもつなげている。

AIが得意手書き文字の読み取り・データ化、通知書アップロードなどの定型的な繰り返し作業、大量申請の一括処理
人間が不可欠高齢者への対面サポート、申請内容の例外判断、制度設計・改善提案、個別の相談対応
協働で効率化AIが処理した申請データを職員が最終確認、入電分析の結果を基にFAQやマニュアルを改善

2026年度にはAIボイスボットも導入予定

福岡市とパーソルビジネスプロセスデザインは、2026年度(令和8年度)からコールセンター業務のさらなるDX化を進める方針だ。具体的にはAIボイスボットの導入を予定しており、電話での問い合わせ対応の一部を自動化する計画となっている。

申請書の受付から審査、交付、問い合わせ対応まで、一連のプロセスで自動化の範囲が段階的に広がっている。自治体の福祉業務におけるDXの進め方として、「一気に全部を変える」のではなく「効果の大きい部分から順に自動化し、人は人にしかできない業務にシフトする」というアプローチは、他の自治体にとっても参考になるモデルだろう。

関連する職種のAI影響度

この記事で取り上げた自治体窓口業務のAI活用は、以下の職種に特に関連しています。

  • 地方公務員(行政事務) — 申請処理・交付事務など定型業務のAI-OCR/RPA化が進む一方、制度設計や住民対応は引き続き人間の判断力が求められる
  • 一般事務 — 手書き書類のデータ入力やファイリングといった業務がAI-OCRで効率化され、より企画的な業務への転換が進む
  • コールセンターオペレーター — AIボイスボットの導入で定型的な問い合わせ対応が自動化される見通し。複雑な相談や高齢者への丁寧な対応は人間の役割として残る

まとめ

福岡市の高齢者乗車券事業では、年間約16万件の申請処理にAI-OCRとRPAを導入することで、職員の事務処理負担を軽減した。ピーク時に1日1万件を超える申請を処理しなければならない現場で、手書き文字の自動読み取りと交付通知の自動アップロードが実現したことは大きな変化だ。

重要なのは、「人を減らすためのAI導入」ではなく、「人が本来やるべき仕事に集中するためのAI導入」という位置づけだ。事務処理から解放された職員が高齢者への対面サポートや制度改善に時間を使えるようになったことが、この事例の本質的な成果と言える。

出典・参考