大判印刷の分割作業が20分→2分に——TooのIllustrator自動化プラグインが変える制作現場

大判のポスターや横断幕を印刷するとき、デザインデータをそのまま出力できることは少ない。プリンターの印刷幅に合わせてデータを分割し、トンボ(裁断の目印)を付け、出力順を整理する——この「段取り作業」に、ベテランのオペレーターでも1件あたり約20分を費やしている。繁忙期には1日何十件もの案件が重なり、単純作業に時間を取られて本来注力すべき品質チェックや後工程の管理に手が回らないのが印刷現場の実情だ。

2026年4月2日、クリエイティブ市場向け専門商社の株式会社Tooは、この段取り作業を自動化する「自動化プラグイン開発サービス」の導入事例を公開した。Adobe Illustrator上で動作するスクリプトにより、大判インクジェット出力に必要な分割作業の時間を最大90%削減したという。

何が自動化されたのか

導入企業である株式会社ビーアンドピーは、販促物やイベント装飾などの大判印刷を手がける企業だ。同社が抱えていた課題は明確だった。

大判出力のたびに発生する分割作業が、すべて手作業だった。

具体的には、以下のような工程がIllustratorの手操作で行われていた。

  • デザインデータをプリンター幅に合わせて分割
  • 各パーツにトンボ(裁断位置の目印)を付与
  • 出力順序の整理と面付け(1枚のシートに複数データを配置)
  • 分割後のデータ確認と微調整

これらはクリエイティブな判断を必要としない定型作業だが、ミスをすれば刷り直しになるため、集中力と正確さが求められる。熟練オペレーターでも1件20分、新人ならさらに時間がかかる工程だ。

Tooの自動化プラグインは、この一連の分割作業をIllustratorのスクリプトとして実装。ボタンひとつで実行できるようにした。

従来の手作業約20分/件
    • 手動でデータ分割
    • トンボを1つずつ配置
    • 目視で出力順を確認
    • ミスがあれば刷り直し
プラグイン導入後約2分/件
  • 設定を選んで自動分割
  • トンボ自動配置
  • 出力順も自動整理
  • ヒューマンエラーを防止

「スマートファクトリー化」の具体的な一歩

ビーアンドピーがこのプラグインを導入した背景には、同社が進めるスマートファクトリー化がある。製造業でよく聞く言葉だが、印刷業界でも生産工程のデジタル化・自動化は重要なテーマになっている。

ただし、印刷現場の自動化は工場のロボット導入とは少し事情が異なる。印刷物は案件ごとにサイズも素材もデザインも違うため、完全な無人化は難しい。そこで重要になるのが、「判断が必要な工程」と「機械的に繰り返す工程」を切り分けることだ。

Tooの自動化プラグイン開発サービスは、まさにこの切り分けを支援するものだ。各企業の業務フローをヒアリングした上で、繰り返し発生する作業に特化したスクリプトを開発する。汎用ツールではなく、その企業の業務に最適化されたカスタム開発である点が特徴だ。

自動化が得意データ分割・トンボ配置・面付けなど、ルールが明確な繰り返し作業
人間が不可欠デザインの色味調整・素材選定・仕上がり品質の最終判断
協働で効率化自動分割後のデータ確認。スクリプトが下処理し、人間が最終チェック

削減された時間はどこに向かうのか

1件あたり18分の短縮は、一見すると小さな改善に見えるかもしれない。しかし、大判印刷の現場では1日に数十件の出力案件を処理することも珍しくない。仮に1日30件の分割作業があるとすれば、1日あたり約9時間の作業時間が約1時間に圧縮される計算だ。

最大90%分割作業時間の削減率(1件あたり約20分→約2分)

ビーアンドピーは、この削減された時間を人材育成やスキル習得に充てると明言している。これは注目すべきポイントだ。自動化で浮いた時間を「さらに多くの案件をこなす」ために使うのではなく、「人の成長」に投資するという判断をしている。

印刷業界に限らず、定型作業の自動化によって生まれた時間をどう使うかは、その企業の方向性を示す。短期的な生産量の増加ではなく、長期的な組織力の底上げを選んだビーアンドピーの姿勢は、他業種の企業にとっても参考になるだろう。

印刷・DTP業界の自動化はどこまで進むか

今回のプラグインはAdobe Illustratorに特化したスクリプトだが、印刷・DTP業界全体を見渡すと、自動化の波は確実に広がっている。

面付けソフトの自動化、RIP(ラスタライズ処理)の高速化、色校正のデジタル化など、出力工程の前後でも効率化が進んでいる。一方で、デザインのコンセプト立案、クライアントとの打ち合わせ、印刷物としての仕上がりを左右する素材や加工の選定などは、依然として人間の経験と判断が欠かせない領域だ。

つまり、印刷・DTP業界で起きているのは「人間の仕事がなくなる」という話ではない。定型的な下準備が自動化されることで、オペレーターやデザイナーが本来の専門性を発揮できる時間が増えるという変化だ。

Tooの自動化プラグイン開発サービスは、Adobe製品を活用するあらゆる制作現場に適用可能だとしている。大判印刷に限らず、同様の「手作業のボトルネック」を抱える制作部門にとって、業務フロー見直しのきっかけになりそうだ。

関連する職種のAI影響度

この記事で取り上げた大判印刷の自動化は、以下の職種の働き方に直接関わるテーマです。

まとめ

株式会社Tooの自動化プラグイン開発サービスは、Adobe Illustratorの大判出力に必要な分割作業を自動化し、1件あたりの作業時間を約20分から約2分に短縮した。導入企業のビーアンドピーは、削減された時間を人材育成に充てるとしている。

印刷・DTP制作の現場では、クリエイティブな判断が必要な工程と定型的な段取り作業が混在している。今回の事例は、後者をスクリプトで置き換えることで、前者に集中できる環境を作るという、自動化の理想的な活用法を示している。

出典・参考