受注業務のAI自動化で年間6,000時間を削減 — 営業事務の「入力係から判断係へ」の転換が始まった

毎朝、FAXとメールで届く数十件の注文書。それを1件ずつ基幹システムに手入力し、品番を照合し、在庫を確認する。入力ミスがあれば顧客からクレームが入り、繁忙期には昼食を取る暇すらない——。営業事務に携わる方なら、この風景に心当たりがあるのではないでしょうか。

2026年3月、半導体・電子部品商社の株式会社リョーサンが、ユーザックシステムの受注AIエージェント「Knowfa」を導入し、年間6,000時間の手入力作業を削減する見通しを発表しました(PR TIMES)。FAXやメールで届くPDF注文書の読み取りから基幹システムへの入力までを、AIが自動で処理する仕組みです。

このニュースは、単なる一企業の効率化の話ではありません。JinzAIが541の職種を分析したデータから営業事務を読み解くと、この職種がなぜAI自動化と相性が良いのか、そしてそれが脅威ではなく機会である理由が見えてきます。

営業事務の仕事、どこまでAIに任せられる?

JinzAIでは、日本の541職種について「どの業務がAIに向いていて、どの業務は人間でなければできないのか」を分析しています。営業事務(卸売業)を見ると、業務全体の約3分の2がAIによる効率化の対象になり得ることがわかります。

具体的には、業務を「AIの関わり方」で3つに分けることができます。

約35%AIだけで完結できる業務
約21%AIが主役、人間が確認
約10%人間が主役、AIがサポート

つまり、注文書のデータ入力や照合といった「正確さが命だけど、やること自体は決まっている」作業は、AIが得意とする領域です。リョーサンの事例で自動化された「PDF注文書の読み取り → 基幹システム入力」は、まさにここに該当します。

一方で、残りの約3分の1は人間の判断力や対人スキルが求められる業務です。この内訳は後ほど詳しく見ていきます。

なぜ受注業務はAI化しやすいのか — 3つの理由

営業事務は、541職種の中でも特にAI導入が進みやすい構造を持っています。制度的な障壁がほとんどなく、業務の性質がAIと非常に相性が良いためです。

理由1:業務がデジタルデータの変換作業である

受注業務の本質は、「紙・PDF・メールの情報」を「基幹システムのデータ」に変換する作業です。入力元も出力先もデジタル化できる情報であり、AIが最も力を発揮しやすい領域です。

理由2:正解が明確で判断の曖昧さが少ない

品番「ABC-1234」を品番欄に入力する。数量「100」を数量欄に入力する。このように、正解が一つに定まるタスクは、AIの処理精度が人間に並ぶ、あるいは上回りやすい領域です。

理由3:対面でのやりとりや身体的な作業がほぼない

営業事務の受注入力業務には、顧客と直接向き合う場面がほとんどありません。これは介護職や対面営業職と対照的で、AI導入にあたっての心理的・制度的なハードルも低くなります。

AI化が進みにくい職種の特徴

    • 対面での人間関係が業務の中心
    • 身体的な作業を伴う
    • 法律や資格による規制が多い
    • 状況に応じた柔軟な判断が必要

営業事務(受注業務)の特徴

    • データの入力・変換が業務の中心
    • PC上で完結する作業
    • 制度上の障壁がほぼない
    • ルールが明確で正解が決まっている

年間6,000時間削減の裏側 — リョーサンの受注自動化事例

株式会社リョーサンは、半導体・電子部品の専門商社で、2024年4月に菱洋エレクトロと経営統合した業界大手です。全国の取引先からFAXやメールで届くPDF形式の注文書を、営業事務担当者が基幹システムに手入力していました。

導入前の課題:
  • 顧客ごとに異なる注文書フォーマットへの対応に手間がかかる
  • 業界特有の商習慣(品番の読み替え、独自の納期ルールなど)が複雑
  • 経験豊富な担当者の「職人芸」に頼らざるを得ず、属人化が進行
  • 繁忙期の入力ミスリスクと、それに伴う心理的負荷
Knowfa(受注AIエージェント)導入後の変化:
  • AIが注文書のPDFを読み取り、品番・数量・納期などを自動で抽出
  • 従来のOCRでは対応が難しかった備考欄の指示内容まで自動変換
  • 学習機能により、使うほど処理精度が向上
  • 年間6,000時間の手入力作業を削減する見込み
  • 1件あたりの処理時間が大幅に短縮し、繁忙期の残業を削減
  • ダブルチェックの初動をAIが担うことで、人的な転記ミスが激減
年間6,000時間 リョーサンが削減を見込む手入力作業の時間。3人のフルタイム担当者の年間作業量に相当

リョーサンは今後、このシステムを全社的な標準基盤として展開し、DX推進と顧客満足度の向上を目指す方針です。

AIに任せる仕事・自分が担う仕事の見分け方

営業事務の業務の約3分の2がAIで効率化できるとはいえ、裏を返せば約3分の1の業務は人間でなければ務まりません。では、その境界線はどこにあるのでしょうか。

AIに任せられる 注文書データの読み取り・転記、品番・価格マスタとの照合、在庫数量の確認・引当処理、定型的な受注確認メールの送信、伝票・請求書の発行。
人間が不可欠 イレギュラー注文への判断と対応、取引先との納期調整・交渉、新規取引先の与信判断サポート、クレーム対応と関係修復、業務フローの改善提案。
協働で効率化 AIが下書きした受注確認を人間が最終チェック、AIが異常値を検知し人間が判断・対応、AIが過去データを分析し人間が需要予測に活用。

ポイントは、「正解が一つに決まる作業」はAIに、「状況を読んで判断する仕事」は人間にという切り分けです。

営業事務の未来は「仕事がなくなる」のではなく、「入力係から判断係へ」の役割シフトです。データ入力に特化した職種と比べると、営業事務には顧客対応・例外処理・業務改善という判断を伴う業務が確実に残ります。入力作業から解放された時間を、こうした付加価値の高い仕事に振り向けることが、これからの営業事務に求められる姿です。

まとめ:入力の手を止めて、判断の頭を使う時代へ

リョーサンの年間6,000時間削減は、営業事務という職種が迎えている構造変化を象徴しています。

  • 業務の約3分の2がAIで効率化の対象 — 定型的な入力・照合・チェック作業が中心
  • AI導入の制度的な壁はほぼゼロ — 541職種の中でも特に導入しやすい構造
  • 約3分の1は人間の判断力が不可欠 — 顧客対応・例外処理・改善提案は人の領域
  • 日本の営業事務にはまだ大きなAI活用の余地がある — 先行事例が増え始めた段階

受注入力に費やしていた時間を、顧客との関係構築や業務改善の提案に振り向ける。それが、AI時代の営業事務に求められる「入力係から判断係へ」の転換です。

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出典・参考