freeeがChatGPTで確定申告相談を提供開始——税理士1万件の知見をAIが届ける時代に

「この経費、本当に落とせるの?」——確定申告の時期になると、毎年この疑問に悩む個人事業主は多い。ネットで調べても情報が古かったり、自分のケースに当てはまるのか判断がつかない。かといって税理士に相談するのはハードルが高い。

2026年2月、フリー株式会社がこの課題に対する新しいアプローチを打ち出した。ChatGPT上で動く「freee確定申告」アプリだ。

何ができるようになるのか

使い方はシンプルだ。ChatGPTを開き、「@freee確定申告」と入力してから質問するだけ。たとえば「自宅兼事務所の家賃は経費にできる?」と聞けば、AIが回答を返してくれる。

ただし、ここが重要なポイントだ。AIが「推測で」答えるのではない。 1万件以上の税理士が実際に回答した相談事例のデータベースから、質問に合った回答を検索して提示する仕組みになっている。回答した税理士の氏名や所属も表示されるため、「誰が言っているのか」が明確だ。

従来数時間〜数日
    • 検索エンジンで複数サイトを巡回
    • 情報の新しさ・正確性を自分で判断
    • 自分のケースに当てはまるか不明
freee確定申告アプリ数十秒
  • ChatGPTに質問するだけ
  • 税理士の実回答がベース
  • 回答者の氏名・所属を明示

国内企業としていち早く「Apps in ChatGPT」に対応した事例でもある。freee会計の既存機能や「入力おまかせプラン」と連携することで、相談から実際の申告完了までをひとつの流れでカバーできる設計だ。

「AIが税理士の代わりになる」わけではない

この話を聞いて「税理士の仕事がなくなるのでは」と思う人もいるかもしれない。しかし実態はむしろ逆だ。

freee確定申告アプリが担うのは、税務相談の中でも「情報を探す」フェーズに限られる。確定申告の業務全体を見ると、AIが得意な領域と、人間でなければ対応できない領域がはっきりと分かれている。

AIが得意過去の相談事例からの情報検索、よくある質問への即時回答、基本的な仕訳パターンの提示
人間が不可欠個別事情を踏まえた節税戦略の立案、税務調査への対応、複雑な事業構造の税務判断
協働で効率化AIが候補を絞り込み→税理士が最終確認、申告書の下書き生成→専門家がレビュー

税理士の仕事の中でも、「同じような質問に繰り返し答える」部分は確かにAIに移行しつつある。だがその結果、税理士はより複雑で付加価値の高い相談——事業承継や国際税務、経営判断に踏み込んだ助言——に時間を使えるようになる。

個人事業主にとっての実際の意味

フリーランスや小規模事業主にとって、このサービスの価値は「正解を教えてくれる」ことではない。「どこに答えがあるか分からない」という不安を解消することにある。

確定申告の何が大変かといえば、計算そのものよりも「自分のやり方が合っているのか確認する手段がない」ことだ。freee確定申告アプリは、その確認コストを大幅に下げる。

1万件超AIが検索する税理士回答データベースの規模。推測ではなく、実際の専門家の知見に基づく回答

ただし注意点もある。あくまで「過去の相談事例の検索」であり、個別の状況に完全にフィットする保証はない。最終的な申告判断は自分自身(または税理士)が行う必要がある。これはAIツール全般に言えることだが、「参考にする」と「丸投げする」の線引きは利用者側の責任だ。

税務の世界で進む「AIと人間の役割分担」

freeeの今回の取り組みは、税務分野における大きな流れの一部でもある。会計ソフトがクラウド化し、レシート読み取りがAIで自動化され、今度は相談までAIが窓口になる。

この流れの中で変わるのは、「専門知識へのアクセス方法」だ。かつては税理士事務所に予約を取り、対面で相談するしかなかった情報が、ChatGPTを開けば数十秒で手に入るようになる。

一方で変わらないのは、「最終判断には専門家の目が必要」という構造だ。税法は毎年改正され、個人の事業形態は千差万別。AIが提示する「一般的な回答」と「あなたのケースでの正解」の間には、依然として専門家の判断が必要なギャップがある。

経理事務税理士といった税務に関わる職種では、「定型的な問い合わせ対応」がAIに移行する一方で、「判断を伴う業務」の比重が高まっていく。確定申告に限らず、多くの専門職で同じパターンが進んでいる。AIが情報へのアクセスを広げ、専門家はより高度な判断に集中する——この役割分担をうまく活かせるかどうかが、これからの分かれ道になりそうだ。

出典・参考